生産科学科
学びの特色
次世代シーケンサーを活用して、ゲノム育種を加速させる(植物基礎系 植物育種学分野)
高木 博樹 准教授
農業における有用遺伝子の同定に次世代シーケンサーを活用
新たに有用な遺伝子を同定することは、ゲノム情報を活用した育種において重要な課題です。しかし、従来の技術を用いた遺伝子同定は、多大な時間と労力、コストを必要とするため、当研究室では「次世代シーケンサー」とよばれるゲノム解読装置を活用した迅速かつ低コストの新規有用遺伝子技術の開発に取り組んでいます。これまでに、イネにおける耐塩性遺伝子を同定し、同定した遺伝子を活用して新たな品種の育成に成功しています。
アブラナ科野菜の形質を制御する遺伝子を同定し、育種に活かす
現在、私が取り組んでいるのは、アブラナ科野菜の育種です。なかでも、Brassicarapaという植物種に興味を持っています。この植物種には、かぶ、白菜、水菜、チンゲン菜など、私たちが普段食べている身近な野菜が属しています。これらの野菜における形質の違いが、どのような遺伝子によって制御されているのかを解析し、同定したいと考えています。遺伝子同定ができれば、実際にそのゲノム情報を活用した育種にも挑戦していきます。
作物の特性を解き明かし、持続的な生産に役立てる(植物生産系 作物生産学分野)
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?塚口 直史准教授 |
イネは日本だけでなく、世界でも非常に重要な作物(栽培植物)の一つです。コメは人口増加の著しいアジア諸国の主食として、今後ますますその生産性の向上が求められます。日本では外国産の低価格のコメに対する競争力を持つために、より高品質で収量の多い品種が求 められています。イネは10年以上前に全ゲノム情報が解読され、その情報を利用した育種(作物改良)が進められてきました。収量や品質を高めるためにイネなどの作物が持つべき特性を解明し、その遺伝子を明らかにして作物改良につなげるのが作物学です。
これまでにイネの収量を増やす多くの特性とその遺伝子が解明され、育種に利用されてきました。ただしそれらは多くの肥料(窒素)を必要とするため、貧しい農家では恩恵にあずかれないこと、肥料のやりすぎが川や海の水を汚染してしまうことが指摘されています。作物生産学研究室では、イネ体内の窒素分配に関する研究を進めています。各器官への窒素分配のメカニズムを明らかにし、窒素をよりうまく使う作物改良につなげ、そこで分かったことを生かして環境に負荷をかけない栽培技術の確立をめざしていきます。
病原体から植物を守る技術開発(植物基礎系 植物病理学分野)
誰もが一度は家庭菜園や畑で野菜や果物を育てた経験があるのではないでしょうか。作物が成長するにつれ、また収穫時期が近づくにつれて、心がときめくものです。しかし、それが病気で侵されていたらどうでしょう。それは地域の農家の方にとっても同じことで、丹精込めて育てた農作物が病害で収穫困難に陥ることは、心が痛むだけでなく、農家の収入減に直結します。
地球上には、農作物に感染して多大な被害をおよぼす様々な病原体(植物病原体)が存在しています。その被害は、世界中で毎年8~10億人分の食料に相当するとも算出されています。このようなことから、植物の病気を研究する分野(植物病理学)は、地域農家といったローカルな問題から、人口増加や食糧危機などの社会的な問題にまで発展する、とても重要な役割を担っているといえます。
病原体による植物病の原因は、糸状菌(カビ)、細菌、ウイルスなどが挙げられ、人間の病気の原因とよく似ています。しかしながら、ある一つの植物病原体は、ヒトや動物はもちろん、実はほとんどの植物種に感染することができない代わりに、特定の植物種や品種にのみ高確率で感染して激しい病気を引き起こすという特殊な能力を持っています。なぜそのような特徴を持っているのでしょうか。
当研究室では、この疑問を解き明かすために、病原糸状菌が植物に感染する仕組みについての研究を行っています。その中で、病原糸状菌が持つ感染の成否を決定する因子(病原性因子)についての研究成果を挙げてきました。すなわち、病原糸状菌は、植物に本来備わっている病原体を排除する力(抵抗性)を、巧みな戦術でかいくぐることで感染を確立させるということを明らかにしてきました。
今後、その分子メカニズムを深く解明し、将来の農作物保護につながる技術開発にむけた研究を進めたいと考えています。
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既存の地域ブランドを守り、新たなブランドを育てる(植物生産系 作物生理学分野)
サツマイモはスイカやダイコンと並び石川県の主要な畑作物です。有名な「五郎島金時」をはじめ、「かほっくり」や「能登金時」などはブランド名で、いずれも品種‘高系14号’を砂地で栽培することにより高品質な塊根(イモ)を生産しています。‘高系14号’は西日本を中心に広く栽培されていますが、砂地では畑地より食味に優れた塊根を栽培できるため、県内の砂丘地帯で栽培された‘高系14号’はブランド作物としての地位を確立できています。
しかし収穫直後の‘高系14号’塊根は主に東日本で栽培されている品種‘ベニアズマ’の塊根と比べ糖度が低く、糖度が高まる(糖化)には数ヶ月間の貯蔵が必要となることが関東市場への出荷拡大に大きな障壁となっています。これまでに‘高系14号’塊根の糖化に関わる酵素とその遺伝子をつきとめました。今後はこの遺伝子のゲノム解析を進めて、糖化期間を短縮する技術の開発に結びつけたいと考えています。
一方、戦前の石川県で育成された品種‘兼六’は塊根にβ-カロテンを含むため鮮やかなオレンジ色を呈するのが特徴ですが、栽培の難しさなどから長らく生産が途絶えていました。これまでに砂地より畑地の方が優れた塊根を収穫できることがわかり、‘兼六’と‘高系14号’は県内で産地の棲み分けができると期待しています。さらに収量や品質を高めるための栽培試験のほか、すでに商品化されている干し芋以外の利用法の開発や需要の掘り起こしを地域企業の協力を受けながら進めており、「五郎島金時」に匹敵するブランド作物に育てたいと考えています。